脳のネット

大学院生の時、研究室や地下の実験室は格好の隠れ家だった。
別に隠れてやましいことをやっていたわけではないが、人の目の届かないところというのは、それだけで特別な場所になる。

まあたまに徹夜で麻雀をしていたことはあったが、比較的健全に学生生活を送っていたと思う。
「格好の」というのは、一人きりで考えたり、友人と語り合ったりするのに、という意味だ。

大学生というのはとにかく色んなことを考える時期だ。
将来のこと、学問のこと、恋愛のこと、お金のこと、今までの子供だった自分の考えから、新しく発想できたものを自分の中で上書きして、人生の指針として作り上げる時期かもしれない。
もちろん大人になってからもそれらは考え続けるが、大人の入り口、転換期という意味では大学生は最適な時期だろう。

私は一人でものを考えることが多かったが、友人に「もっと人を使った方がいい」というようなことを言われ、少し納得はいかなかったものの、彼はデキる人だったから、いくらか従ってみた。
ある日、彼を呼び出し、将来の話を聞いてもらうことにした。

今でもその内容は僕らの間で話題になるのだが、彼は知識をできる限り取り込む生き方をすると話してくれた。
もちろん本は沢山読むし、ネットからの情報も、玉石混交だが取り入れると言った。
それで頭の中に情報のネットを作り、新たな問題を解決するというのだ。

私は違うと言った。
作り上げたネットによって、適切でない所に引っかかってしまうこともあると思うのだ。
もっと「後ろの方」で受け取るべきだったり、やるべきでない場所で解決を試みてしまったりすることがある。

概念的なことだから、何とも答えが出ないし、まだ働いていないので何がこれから正しいのかわからない。
私たちはこれからどちらの方法が正しかったのか実験していこうということで、今に至る。

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