居酒屋のアルバイトの思い出

学生のころ居酒屋でバイトをしていた。
居酒屋というのは大抵深夜まで営業しているので、人員も深夜まで必要である。
私はどちらかというとアルバイト稼業に本腰を入れていなかったので、基本的には深夜まで働かずに、日をまたぐまえにそそくさと帰っていたが、それでもごくごく、ごくごく稀には深夜バイトもした。

深夜というのは、都心の本当の繁華街でこそ忙しいけれども、郊外であれば皆帰宅するので、意外に客数は少ない。
本当に時々メニューをとりに行って、出たお料理を運んで、空いた皿を下げてくる。
それでもすぐラストオーダーになるので、そうするともうほぼやることはない。
あまりにする仕事もないから、賄いをゆっくり食べることが出来る。

この賄いというのがとても魅力的である。
材料の余りを使ってキッチンの人がこしらえてくれるのだが、メニューにないあり合わせなので、日によって違う。
豪華な海鮮茶漬けのこともあるし、から揚げの残りとかのこともある。
まあ大抵はどんぶりものである。

それを手のあいた人から順番に一つのテーブルで食べるというのは、なんだか共同生活みたいでちょっと面白いものだ。
言ってもみんな忙しい時間を経て今に至るわけで、至極へとへとなので口数は少ないが。
それでもめったにない深夜バイトの日には、この賄いが楽しみであった。

それから、ドリンク場のところで、こっそり自分調合のスペシャルドリンク(ジンジャーエールとサワーに使うりんごシロップみたいのノンアルコール)をつくって飲むこともできた。
むろん、本来は禁止である。
ばれたら金を取られたろうが、果たして店長は本当に知らなかったのだろうか。
何となく知っていて知らないふりをしてくれていたような気も、しないでもない。
とにかく、昔のアルバイトというのはよい思い出である。

接客の職場は楽しい

かりんとうのこと

私にたくさんある、時々無性に食べたくなるもの。
その一つにかりんとうがある。
出来れば黒糖がまわりにぎっちりついた、実よりも黒糖が多い大きいやつがいい。
でもそれは結構値が張るので、べつにそんなに大きくないやつでもいい。
とにかく黒糖まみれのやつだったら。

小さい頃はかりんとうが好きではなかった。
そもそも黒糖が嫌いだった。
だから、かりんとうでもふがしでも黒飴でも、黒糖を使ったものはことごとく嫌いだった。
でも大人になって、お酒を飲むようになってから、私は黒糖が大好きになった。
その要因のひとつが、居酒屋で出される黒糖そらまめ。
言うまでもなく、かりかりに干されたそらまめのまわりに、ぎっちり黒糖がまぶしてあるやつだ。
初めてあれを食べながら、これまた黒糖焼酎を飲んだとき、こんなおいしい組み合わせがあるのかと思った。
たまに、食べたことはない、もしくは嫌いだけど、何となく憧れている食べ物というのがあるが、私の場合の黒糖がその類だったのだ(あとはカキ)。
だから、あんまり好きではないのが分かっていながらも居酒屋で注文してみたのだ。
この場合は非常に上手くいって、私は黒糖嫌いを克服できたのである(カキは失敗して、もっと嫌いになってしまった、残念だ)。
それからというもの、お酒に格別合うのは、黒糖もしくはあんこだと信じている。
今日も無性にかりんとうが食べたくなったので買いに行ってきた。
今日のは、渦巻状になっている平たくて丸いやつ。
別に黒糖まみれではないけど、それでもよしとする。
これでやっぱり一杯やろうと思って、楽しみにしているのだ。

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