忘れられない懐かしい木の香り
忘れられないあの場所に、あまり大きくない木が一本ありました。
玄関を出るとすぐにその木があって、なんとも言えない甘くて魅力的な香りがいつもしてきます。
木にはたくさんの花がありました。
たぶん、日本では経験したことがない甘くとろけるような不思議な香りです。
私は、習いたての言葉でその木が何という名前なのか訊いてみました。
すると丁寧に教えてくれました。
確か、海という漢字が付いていたと思います。
あまり草木や香りに興味のない私でしたが、その時だけは違いました。
宿舎に帰る度に、この木が甘い香りでお出迎え。
温かい日差しの中で、いつも静かに情熱的に迎えてくれました。
帰国してから、あの木の香りが恋しくなってどうしても欲しくなりました。
出来ることなら、自宅の庭に植えたいとも思います。
しかし、あの木の名前はもうはっきりと覚えてはいません。
それに、あの香りをかぐことも二度とありませんでした。
だからこそ、余計に懐かしく恋しくなるのです。
思い出の中に、いつも住んでいる人達とあの木の香り。
いつかまた、もう一度あの場所に足を運んでみたいと思います。
その時は、子供も連れて行きましょう。
そして、かつてお母さんも夢を追い求め海を越えたことがあったのだと話してあげたいと思います。
子供もいつか自分の道を見つけて歩み出す。
同じように、忘れられない場所を見つけ一つ一つ踏みしめながら歩いて行くことでしょう。
人生は、あっという間に過ぎて行くのです。
くれぐれも後悔のないよう、後悔させないよう育てて行きたいと思っています。
水銀体温計と小学生の思い出
少し前までは一家にひとつはあった水銀体温計。
うちには今でもありますが、時々使うことがあると、自分が小学生の、小さかったころの思い出がよみがえってきます。
よく漫画などでも使われるずる休みの一幕。
誰も見ていない隙を狙って体温計をこすって38度くらいまで上げる。
こんな光景はデジタル体温計では不可能です。
当時の子供達は誰に教わるとも無くみんなこの知恵を持っていました。
いかに真実味のある温度まであげるかがミソで、平熱の低い私は、37.5度くらいが丁度よかったのです。
実に良い時代でした。
そして、計った後には温度を下げるのに体温計をぶんぶん振りますが、その時何かにぶつけて体温計を割るのがお決まりです。
多分使ったことのある人なら必ず一度は経験するのではないでしょうか。
水銀は触ると毒だというのは知っていましたから、割った後散らばったガラスや水銀を拾い集めるのにびくびくしたものです。
周りを注意してからやれと、親にもこっぴどく怒られましたしね。
その時初めて、水銀は金属なのに液体のようで、それでいて球状になることを学びました。
球状になった水銀は手でつまめるのだというのもその時知りました。
ある意味実体験で理科を学んでいたのです。
水銀に触れるのが一瞬だったら大丈夫と思っていたのでしょうけれど、今考えると結構危ないですね。
大人になった最近ではもっぱらデジタル体温計に頼っていますが、今でもあの水銀体温計の、紐のついた透明なケースを眺めるたびに何だか懐かしい気持ちになるのです。